2005.10.30
下町の賑わい所
「からから亭」
小田急線・経堂駅の北口を出て、戦後サブカルチャーの元祖ともいえる故・植草甚一氏が事務所を構えた小田急経堂アパートの威容を左手に見ながら道なりに経堂西通り(北側)に入ると、いまや手広く展開している居酒屋「楽」の本店を越えてすぐ左に、戦後下町の歓楽街にあったようなレトロな感じのネオン看板が目に飛び込んでくる。
からから亭という店名の下をくぐり抜けるようにして入ってみると、白木のカウンターとテーブルのある清潔そうな店。どうやら、ラーメンとギョウザ中心のようだ。
まずはカウンターに坐り、エビスの生と焼きギョウザを注文。熱々の焼き立てギョウザを口に放り込みながらビールをゴクリ。ここのギョウザはニンニクもニラも入らない臭みのないギョウザだが、豚肉の良い味がシンプルに口中に広がってくる。大衆的だけど上品な味。親しみやすいけど、味わう瞬間には、外食の特別な気分にさせてくれる。6個で350円というのも良心的。思わず嬉しくなって「ギョウザ旨いですね」と、ご主人に声をかけると、「そうかい?普通に作ってるだけだけどね」という、照れたような返事。
そんな人柄に興味を持ち、話し掛けてみれば、下町・東向島の出身なんだとか。木ノ実ナナや王貞治は、ご近所の育ち。戦後すぐの下町の興味深い話を話してくださった。
話し込むうちに店が混んできた。お隣はプロの将棋指し、後ろのテーブルは咄家とお連れの方。それぞれが、ご主人と談笑し、店内には下町のエスプリとでもいう雰囲気が充満。嬉しくなって、ついつい酒が進む。咄家さんの真似をして、かめ入りの香り高い紹興酒をネギ炒めで飲む。
将棋指しの方の話に割り込んでみた。将棋は、インドのチャトランガという双六が発祥で、シルクロードを経て日本に伝わったとか。 そんな悠久のドラマも酒の肴。からから亭。明日も経堂の旅の途中に立ち寄ってみたい。(文・経堂敬)
からから亭
- 住 所
- 東京都世田谷区経堂2-19-10