人がいる、人がつながる、長屋のような経堂の街がある

2019.1.2

経堂から全国に〈大人の笑い〉を愛好する人と店がつながる網の目〈コメディクラブのネットワーク〉をつくる。

コメディクラブ

12/28の新宿・紀伊国屋ホールは凄い熱量で笑いが渦巻いた。

経堂さばのゆでもお馴染みの清水宏さん、ぜんじろうさんが中心となる
日本スタンダップコメディ協会のライブだ。

海外が何でも良いと言う訳ではないが、欧米(特に英語圏)の大きな都市には、
街のあちこちにコメディクラブがあり、
そこを拠点にたくさんのスタンダップコメディアンが
マイクを通じて自分の言葉を観客に伝え、笑わせ、それを生業として、暮らしている。
ぼくがロンドンを中心にスタンダップコメディを観ていたのは、
1994年〜2002年頃だから、
今年はロンドンで初めて生のスタンダップコメディを観て25年になる。
(1996年は、笑福亭鶴笑師匠と初めてエディンバラに行った)

素晴らしいと思ったのは、
街全体に大人の笑い(コメディアンが自分の立ち位置を明確にして、
社会問題にも斬り込んでいく)の文化が根付いていることで、
モンティパイソンの国の笑いの文化の裾野の広さを実感した。
当時のロンドンには、
有名なピカデリー裏のコメディストアーのような常打ち小屋から、
普段はパブだが金土日は店の奥に小さなステージを作る週末コメディクラブを含めて、
およそ450ヶ所ほどのコメディクラブがあった。

小さな小屋も熱かったが、たった一人で1000人規模の劇場を大入満員にして
一ヶ月間の公演を行い、DVDや本、その他のグッズを売り、
一年分の稼ぎを得て、残りの11ヶ月は、次の公演のために充電をする、
例えば、モンティパイソンの周年番組によく登場するエディー・イザードのような
コメディアンがたくさんいることにも20代の自分は大いに驚いた。

この写真は、当時のロンドンの駅の売店で売られていた
「A to Z of Comedy」というコメディのガイドブック。

ロンドンを中心に楽しめる大人の笑いの種類や人気のコメディアン、
そして、コメディクラブの情報を網羅したもので、
もちろん「A to Z」は、有名なロンドン観光のお供「London A to Z」を連想させるネーミング。
つまりはコメディがそれほど身近なのだ。



コメディクラブの存在が、
数多くのコメディアンや役者の暮らしを支えているのにも驚いた。
例えば当時の友人の一人が役者として
テレビや映画のオーディションを受け続けながら、
週末はコメディクラブを回って暮らしていた。
彼の週末は、例えばこんな感じ。
20〜30分ほどに整えたネタを持って稼ぐ週末。
・金曜日
19時〜アクトンタウン
20時半〜イーリングブロードウェイ
22時半〜ソーホー
・土曜日
19時〜カムデンタウン
21時〜ピカデリー
22時半〜タワーブリッジ
・日曜日
16時〜イズリントン
18時〜ハムステッド
ギャラは一回につき30〜40ポンド。
日本の感覚でいうと
6000円〜8000円という感じか。
ということは、
週末の彼の稼ぎは、5万〜7万くらい、
月にすると、20万〜多い時は30万くらい。
(ザックリですが)
これが何を意味するかというと、
つまり「バイトをしなくていい」のだ。

ちなみに友人は、月曜から木曜のオフは、
庭いじりと図書館通い、コメディ映画の鑑賞(研究)、
夕方からパブでビールを飲む暮らしを楽しんでいた。

この先、東京でもコメディクラブとして
使える場所が増え、スタンダップコメディのパフォーマーも増え、
コメディクラブの文化が点から線になり、面となったら、
例えば、次のような週末を過ごす劇団員やお笑い芸人などの
パフォーマーが増えてもおかしくない。
ミュージシャンや会社員がスタンダップをしても良いのだ。

・金曜日
19時〜経堂さばのゆ
20時半〜下北沢
22時半〜仙川
・土曜日
19時〜西荻窪
21時〜武蔵小金井
22時半〜新宿
・日曜日
16時〜三軒茶屋
18時〜恵比寿

週末のコメディクラブで観客を笑わせて暮らしの糧を得て、
バイトなどに時間を取られずに、ネタの仕込みや充電を行う。
10年後の東京にコメディクラブ文化が根付いていると、どんなに素敵だろうか。

そんな話を清水宏さんに伝えたら、力強い快諾のメッセージが。

そして今年は、『モンティパイソン大全』という本を書いてから20年、
スタンダップコメディはじめとした小さなライブも多く行われてきたさばのゆは10年になる。

なんとなく節目の年でもあるので、
経堂から全国に〈大人の笑い〉を愛好する
人と店がつながる網の目〈コメディクラブのネットワーク〉をつくることに決めた。

コメディクラブがあることで店や商店街が賑わい
→そこに地域のモノづくりや情報発信が絡み
→さらに全国(ご縁があれば海外も)にフラットなヨコもつながり
往き来が網の目のように生まれ、熟成発酵を積み重ねて行く。

その第一歩を経堂からはじめたい。

アバター画像

須田泰成

コメディライター/プロデューサー/著述家/クリエーティブディレクター。2000年、伝説の地域寄席・経堂落語会の代表世話人を勤めた故・栃木要三氏のラーメンからから亭の経営不振を立て直すため、個人飲食店を応援する経堂系ドットコムをスタート。2009年さばのゆオープン、落語、トーク、全国の地域イベント等で知られるように。東日本大震災の津波で流された石巻の缶詰工場・木の屋石巻水産の泥まみれの缶詰を洗って売るプロジェクトは、さばのゆから全国に広まり、約27万個を販売。工場再建のきっかけとなるなど、ソーシャルな活動も多い。本業は、著述、映像・WEB制作、各種プロデュース。著書に『モンティパイソン大全』(洋泉社)、脚本・シリーズ構成に『ベイビー・フィリックス』(NHK),
『スーパー人形劇ドラムカンナの冒険』(NHK)など。
最新刊は、木の屋石巻水産の復興ノンフィクション本『蘇るサバ缶〜震災と希望と人情商店街〜』(廣済堂出版)
Twitter:@yasunarisuda
facebook:https://www.facebook.com/yasunarisuda

関連記事

    現在該当する記事がありません。